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慢性心不全と 睡眠時無呼吸症候群 その他 | 心不全

このコラムは睡眠時無呼吸についてまとめた総説をアレンジしたものです。内容は医療関係者向けに作られております。
 
 

はじめに

心不全は,単に心機能低下という単純な現象の認 識から,種々の基礎的,臨床的研究によりその過程 に神経体液性因子が深く関与しており,代償機構の 過剰から悪循環を形成していると理解されるように なった。このように心不全発症の機序に関する解析 が進み,心不全の治療が神経体液性因子や交感神経 系の抑制であることに重点がおかれ,レニン・アン ジオテンシン系(RAA 系)阻害薬,β遮断薬などの 治療薬の導入が,有効であることが幾多の大規模臨 床試験で証明された。 結果,心不全の生命予後は 改善するようになったが,それでも尚,心不全の総死亡数は悪性腫瘍に次いで本邦で 2 番目に多く,か つ近年増加しているのが現状である。増加の原因と して,急性心筋梗塞に対し早期のカテーテルによる 冠動脈形成術の普及により死亡率は減少したものの, 心筋梗塞後の低心機能患者が増え,治療の進歩を上 回る勢いで心不全患者が増加していることや,高齢 化に伴い心不全の重症化,難治化が進んでいること が原因と考えられている。  慢性心不全患者を対象にした CHART 試験でも, 心不全患者の死亡率は 3 年間で約 20%,1 年間でも 約 7%と報告されており(図 1),心不全の予後は決 して良好とはいえない 1)。最近,慢性心不全と睡眠時無呼吸症候群の関連性 が注目されている。慢性心不全の 30 ~ 40%が中枢性睡眠時無呼吸 症候群を呈するといわれ,慢性心不全と睡眠時無 呼吸症候群は相互に影響し,それぞれの増悪因子 となる。近年,慢性心不全の睡眠時無呼吸症候群合 併例が注目されている。
 
 

1.慢性心不全と睡眠時無呼吸症候群

(I)睡眠時無呼吸症候群の病態と診断方法

睡眠時無呼吸症候群とは,睡眠時に呼吸停止また は低呼吸になる病気である。昼間の耐えがたい眠気 や,夜間就寝中の頻回の中途覚醒で自覚することや, 睡眠時の呼吸の停止や大きないびきなどで家族が発 見することもある。  夜間の呼吸不全を呈する睡眠時無呼吸症候群は, そのメカニズムから閉塞型,中枢型,混合型に分か れる。閉塞型は,肥満,扁桃肥大,小あごなど物理 的要因による上気道閉塞に起因し呼吸努力を伴う閉 塞性睡眠時無呼吸(Obstructive sleep apnea: OSA) で,もっとも多いタイプである。  これに対し中枢型は,脳血管障害・重症心不全な どにより呼吸筋をコントロールする中枢からの神経刺激が消失し,呼吸運動が低下・消失する中枢性 睡眠時無呼吸(Central sleep apnea: CSA)である。 また,中枢型には過呼吸期と無呼吸期が規則的に 交互に現れる Cheyne-Stokes 呼吸を伴う(Cheyne- Stokes respiration with central sleep apnea: CSR- CSA)ものがある。混合型は,文字どおり閉塞型と 中枢型が混在する呼吸障害である。  睡眠時無呼吸症候群の大部分は閉塞型であるが, 慢性心不全患者の 30 ~ 50%に睡眠時無呼吸症候群 が合併し,その多くは(50 ~ 80%)中枢型である 2)。 さらに,同じ中枢型無呼吸であっても,Cheyne- Stokes 呼吸を伴う場合は極めて予後不良である。  睡眠時無呼吸症候群は,「10 秒以上の呼吸停止

(無呼吸)が 1 時間に 5 回以上または 7 時間の睡眠中 に 30 回以上認められる場合」と定義される。しかし, 実際の臨床では,無呼吸低呼吸指数が 5 /時間以上 の睡眠呼吸障害と日中の眠気などをもつ時に診断さ れる(図 2)。

睡眠時無呼吸症候群の最も確実な診断方法は,終 夜睡眠ポリソムノグラフィ検査(Polysomnography: PSG)(図 3)である。無呼吸は,10 秒以上の呼吸気 流の停止でその間呼吸努力がみられる状態を,低呼 吸は,気道が完全に閉じるのではなく,狭小化のた めに換気量が少なくなった状態で換気の 50%以上 の低下に酸素飽和度の 3%以上の低下を伴うものを いう。 1 時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数(無呼吸低呼吸指数,Apnea hypopnea index: AHI) から診断する。AHI が 5 未満なら正常,5 ~ 15 で 軽度,16 ~ 30 が中等度,30 以上が重度,と診断する。

(II)慢性心不全と睡眠時無呼吸症候群の病態

心不全により CSA を引き起こす発症機序は,(1) 頸動脈小体や延髄呼吸中枢における二酸化炭素に対 する感受性の増大,(2)心不全による左室駆出率の 低下に伴う循環時間の延長,(3)肺うっ血による迷 走神経刺激,などが関与すると考えられている 3,4)。呼吸は,動脈血中の 二酸化炭素(CO2)分圧の上 昇によって促進され,低下によって抑制される負の フィードバック機構によって管理されている。心不 全患者では,低酸素血症により交感神経が亢進する ことで CO2 分圧に対する感受性が増大し,過換気 を介し低 CO2 血症となり CSA をさらに悪化させる 4)。

 

 

(III)慢性心不全における睡眠時無呼吸症候群の    予後と治療介入

Corra らは 133 例の慢性心不全患者を対象にした 臨床データで,AHI 30 以上が独立した死亡予測因 子であることを報告している 5)。また,CSR-CSA を 伴う心不全患者は,伴わない患者と比較し生存率が 有意に低下したと報告されている 6,7)。 つまり,心 不全患者の予後は,睡眠時無呼吸症候群,特に CSA の合併で左右されるので,睡眠時無呼吸症候群のス クリーニングは,心不全患者の予後評価および治療 方針において重要である。  したがって,慢性心不全に睡眠時無呼吸症候群を 合併している場合には,睡眠時無呼吸症候群を治療 することは重要である。 それは,1)CSR-CSA に よる低酸素血症の抑制,2)末梢組織への酸素供給 能の回復,3)交感神経活動の抑制,4)心臓への容 量負荷軽減,5)中枢性 CO2 感受性の亢進を是正に よる睡眠時無呼吸の改善,6)睡眠の質の向上,7) Quality of life(QOL)の改善,など様々な効果が期 待できるからである。

(IV)睡眠時無呼吸症候群の治療方法

従来から在宅酸素,持続気道陽圧(Continuous positive airway pressure: CPAP)療 法 が 睡 眠 時 無 呼吸症候群の治療に有効であるといわれている。   CPAP は,チューブを経由して鼻につけたマスク に加圧された陽圧の空気を送り,その空気が舌根 および,周囲の軟部組織を拡張することで吸気時の 気道狭窄を防ぐ方法である。Naughton らは,CSR-CSA に対し,CPAP 治療が睡眠の改善とともに心不 全症状と生活の質の向上をもたらしたと報告してい る 8)。Sin らも CSR を有する心不全に CPAP 療法が, 左室駆出率の有意な改善,死亡とイベント発生の リスクを減少したと報告している 9)。しかしながら, CSA を合併した心不全に,CPAP が予後を改善しな かったとの報告がある 10)。その改善しなかった理由 は,胸腔内圧の上昇によって静脈還流量が減少し心 拍出量が低下し,低血圧と冠血流量の低下をもたら すことで,心筋虚血が生じる可能性があるとしてい る。このように,CPAP は,OSA に対し十分な症状 改善および長期的な予後改善効果があるが,CSR- CSA には必ずしも有効であるとはいえない 10)。  酸素療法は,CPAP のように血行動態に悪影響を 及ぼさないので,CSA の改善により有効であると思 われる。 慢性心不全に対し,夜間在宅酸素療法を 行った結果,AHI と酸素脱飽和係数の有意な減少と ともに,CSA の改善,左室駆出率の増加と身体的活 動指数の改善が見られたという報告がある 11)。しか しながら,酸素療法が心機能改善や QOL の改善が 見られなかったという報告 12) や高酸素血症を来し 活性酸素が産生することによる障害が発生する可能 性が指摘されている 13,14)。 このように,酸素療法 も CPAP と同様に確実な治療法とはいえない。  一方,ASV(図 4,5)は自発呼吸の減衰に対し自 動的に目標換気量を設定し,1 呼吸ごとに適正補助 圧を供給する。その結果,陽圧呼吸管理でありなが ら,比較的自然な呼吸に近い呼吸パターンが維持さ れるため睡眠中の快適な呼吸を維持することができ る。したがって,心不全患者における CSA の予防に 非常に有用であり,睡眠時無呼吸の改善に加え,左 室駆出率,QOL も改善する15,16)。ASV と CPAP は,陽圧補助呼吸の点からほぼ同 等の換気機器である。異なる点として,CPAP は 呼吸に同調できず常に同じ陽圧がかかるのに対し, ASV は同調可能なため不規則な呼吸パターンを是 正しうる。したがって,不規則な呼吸パターンのあ る Cheyne-Stokes 発作に対して ASV は非常に有用 とされる。さらに CSR-CSA の改善は,酸素化の改善 のみならず,活性化された RAA 系や交感神経を抑 制するため慢性心不全の治療に効果的である。
 
 

慢性心不全の治療の変遷と   NPPV  の有用性

近年,慢性心不全の病態に対する考え方,治療は 大きく変遷してきた。 当初,心不全治療には主に 強心薬・利尿薬が用いられた。しかし,大規模臨床 試験 17,18) により大部分の強心薬は,急性において自 他覚症状等の改善効果は有するものの長期投与では むしろ生命予後を悪化させることが示された。また, 利尿薬も短期使用は症状を改善させるが,特に短時 間型ループ利尿薬の使用量が多いほど長期予後を悪 化させることを Eshaghian らは報告している 19)。  この報告に対し,ループ利尿薬使用量が多いほど重 症心不全であるので長期予後は必然的に悪化すると いう反論もあるが,神経・体液性因子を活性化させ るループ利尿薬の長期投与は慎むべきであるという 考えの契機になった。このことより,慢性心不全に 漫然とループ利尿薬を使用する時代からは見直す時 期に差し掛かっているといえよう。  心不全では,RAA 系,交感神経系,利尿ペプチド 系,サイトカイン系などの産生・分泌が関与し,こ れら神経・体液性因子が亢進していることが明らか にされている 20)。 したがって,心不全の治療は心臓への容量負荷の軽減,心筋収縮力を高めるだけで なく,活性化された神経・体液性因子から心筋を保 護することも考慮しなければならない。 実際によ く使用されている急性心不全における Carperitide, 慢性心不全に対する ACE 阻害薬,A II 拮抗薬,β 遮断薬 21) などはいずれも強心作用でなく,心筋保護 作用を主とする。  今回紹介したASV以外のNPPV(Non-invasive Positive Pressure Ventilation: 非侵襲的陽圧換気療 法)として在宅酸素療法や CPAP があり,それぞれ 神経・体液性因子を抑制し心筋を保護する。 CSA を伴う心不全には ASV も選択肢の一つである。15) (図 10)。 ASV は心不全患者において,前負荷を 軽減する作用以外にも中枢性作用を併せ持ち,β遮 断薬と非常に近い治療法といえる 22)。低心機能の慢 性心不全では血圧が低い症例が多いため,β遮断薬 は低血圧を来しやすく,日中のふらつきの増強から 中止、減量を余議なくされること,投与困難なこと が度々ある。 は日中の血行動態に悪影響を及 ぼすことがないため,そのような症例にも安心して 使用可能である。 以上のことから,症例を選べば今後 睡眠時無呼吸に着目した心不全治療は注目に値すると考える。
 
 
(追記 平成29年1月2日)
 
SERVE-HFの結果を受け、日本循環器学会 よりASVに関するステートメントが公表されました。

ASVは、全ての慢性心不全の適応にはならず、適応を選ぶことが記載されております。適応を選び、細かな設定調節を行えば、非常に効果があるケースがあるため今後も慢性心不全の選択選択肢の一つであることは変わりませんが、症状や予後・病態を十分吟味して行うべきであることが改めて示されました。
 
 

文 献

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